蛋白尿・尿潜血

蛋白尿

蛋白尿腎臓が正常な状態であれば、蛋白が尿に漏れ出ることはほとんどありません。しかし腎臓に異常が起こっている場合、ろ過機能を持つ糸球体を蛋白が通り抜けてしまい、尿蛋白が出てきます。糸球体は、コーヒーを淹れる時につかうフィルター(ろ紙)のような役目をしており、本来通過しないはずの蛋白を通過させてしまうことは、糸球体そのものにとって負担になりますので、蛋白尿が出ていること自体が病気の進行を速めてしまいます。蛋白尿自体は、腎臓の病気で引き起こされているのですが、同時に腎臓の病気の進行を速める原因にもなってしまうので、コントロールすることが大切になります。さらに、腎臓の病気や動脈硬化で腎臓内部の欠陥が細くなってしまうと、腎臓の血流量が減って糸球体が目詰まりしてしまうため、腎臓は血圧をあげるホルモンを分泌して血圧をあげることで血流量を保ち、ろ過量を増やして尿量を保とうとします。ですが、血圧が高くなると糸球体内部の細い血管に更にダメージがかかり、結果的には腎臓の機能を損なうことになってしまいます。そして、腎臓の障害が進むことでさらに血圧が上昇すると言う悪循環が起こり、病気が進行していきます。
ただし、腎臓の病気は、自覚症状がほとんどないまま進行してしまい、気付いた時にはかなり病状が進行して透析が必要となるケースもあります。蛋白尿(場合によっては血尿・尿潜血も一緒に出ます)が続くようになってから、自覚症状が出るまでには長い期間が掛かりますが、自覚症状が出てから透析になるまではあまり時間が掛からないのです。ですから、蛋白尿が見つかった場合は、そのまま放置せず一度検査を受けることをお勧めしております。
過激な運動をした場合や、発熱時などには一時的に蛋白尿が出ることもありますので、そのような1回だけの蛋白尿であれば後日再検査でも構いません。ただ、尿蛋白2+以上または、1+で繰り返し陽性反応がある場合は、病的なものと考えられますので速やかに医療機関を受診してください。検尿で尿蛋白を指摘された場合は、以下の疾患が疑われます。

  • 慢性腎臓病(CKD)
  • 慢性糸球体腎炎(IgA腎症など)
  • 糖尿病性腎症
  • 肥満関連腎症
  • 高血圧性腎症(良性腎硬化症・悪性腎硬化症)
  • ネフローゼ症候群(微小変化型・膜性腎症など)
  • 膠原病(全身性エリテマトーデス・血管炎など)
  • 尿路感染症
  • 起立性蛋白尿
  • 腎硬化症

慢性腎臓病

定義としては①尿異常、血液・病理検査、腹部エコーなどの画像診断で明らかな腎障害がある(特に0.15g/gCre以上の蛋白尿の存在が重要)②推算したGFRが60ml/分・1.73m2未満である、のいずれかまたは両方が3カ月以上継続している場合に慢性腎臓病と診断されます。生活習慣の変化と高齢化を背景として、腎臓病の病態は大きく変化してきており、近年では成人の8人に1人が慢性腎臓病と診断されると言われています。軽微な腎障害や蛋白尿が末期腎不全に至る前に、脳卒中や心筋梗塞、心不全などに関係することが分かってきています。また認知症とも関連することが示されていますので、重症化の抑制が非常に重要な疾患です。

糖尿病腎症

長期間血糖値が高い状態が続くことで起きる細小血管障害です。腎臓の中には糸球体というろ過装置があります。これは細く小さな血管の集合体で、高血糖が続くとこの小さな血管がダメージを受け、蛋白質が尿中に漏れ出すようになります。さらに、老廃物をろ過する腎臓機能が低下して、人工透析が必要となってしまいます。このように病気が進行すると、日常生活に大きな支障を及ぼします。なお最近では糖尿病の患者さんのなかで、蛋白尿がないのに腎臓の機能が悪くなっていく病態があり、糖尿病性腎臓病と呼ばれています。糖尿病の方は、日ごろからの定期的な血液・尿検査が重要です。

尿路感染症

尿路感染症は、腎臓・尿管・膀胱・尿道といった尿路のいずれかに細菌が増殖して炎症を起こすもので、炎症を起こす場所によって、膀胱炎、腎盂腎炎などに分類されています。

起立性蛋白尿とは

運動後蛋白尿または生理的蛋白尿と呼ばれ、立った姿勢やちょっとした運動刺激によって尿中に蛋白が出ることがあります。この場合、尿蛋白は少量で通常の生理現象であるため、腎臓機能が悪化することもなく心配は要りません。

濃縮尿とは

水分の摂取量が少なかったり、脱水状態だったりすることで尿が濃くなる状態を濃縮尿と言います。特に、早朝は寝ている間に水分摂取がないため濃くなりやすいとされます。検尿では異常と出ることがありますが、尿蛋白量は少ないため腎臓が悪化する心配はありません。

尿潜血

尿潜血糸球体腎炎のように腎臓からの出血によるものと、尿路結石や膀胱がんのように腎盂・尿管・膀胱・尿道といった尿の通路のいずれかから出血している場合があります。ただし尿潜血反応とは、ヘモグロビンの反応を見る検査ですので、赤血球以外に直接ヘモグロビンが尿に出る病気や、ミオグロビンに反応して陽性になることもあります。また、特定の内服薬によって偽陽性になったり、ビタミンCの過剰摂取で偽陰性になることもあります。ですので、まずは尿潜血陽性が血尿なのか、ということを確かめる詳しい検査に進んでいただく必要があります。検診で指摘されるのは、顕微鏡的血尿といって、顕微鏡で尿を検査してみて初めて分かるタイプの血尿が多く、見た目で分かることは殆どありません。尿潜血が見られる場合は、以下の疾患が疑われます。

  • 尿管結石
  • 尿路感染症(膀胱炎・前立腺炎・腎盂腎炎)
  • 悪性腫瘍・がん(膀胱がん・尿管がん)
  • 慢性糸球体腎炎(IgA腎症など)
  • 急性糸球体腎炎(溶連菌感染後など)
  • 韮薄基底膜病
  • 多発性嚢胞腎
  • アルポート症候群
  • ナットクラッカー現象

尿管結石(尿路結石)

腎臓と膀胱をつなぐ尿管のどこかに結石が詰まってしまい、腎臓で作られた尿が流れにくくなります。石が尿管を傷つけるため、尿に血が混じったり、尿の流れが悪くなって激痛を起こしたりします。詰まった尿に細菌が感染すると高熱が出ることもあります。男性7人に1人、女性15人に1人が経験することがあるとされている病気です。食生活などの生活習慣や肥満が結石の原因になることがありますが、副甲状腺機能亢進症、クッシング症候群、尿細管性アシドーシスなどの内分泌疾患が原因になっている場合もあります。尿管結石は頻度が高く、一般的にもよく耳にする病気ですが、正しく治療をしないと腎機能の低下が起こりますので、原因を調べて治療することが必要です。特に数回繰り返している方は、内分泌の検査をご相談ください。

悪性腫瘍

膀胱がん、腎がん、前立腺がん、尿管がん、腎盂がんなどが悪性腫瘍に含まれます。このなかでも、膀胱がんは顕微鏡的血尿で診断される悪性腫瘍の中で最も多いがんです。中高年以上の顕微鏡的血尿のうち約5%に膀胱がんが発見されると言われており、40歳以上、喫煙歴がある、職業で発がん化学薬品(ベンジン、芳香族アミン)を使っていた、鎮痛剤を多用している、排尿症状がある、などの場合は高リスクとされています。1回目の精査で陰性でも、3年以内に悪性腫瘍が見つかることもありますので、リスクファクターによっては定期的な経過観察が必要な方もいます。

慢性糸球体腎炎

慢性糸球体腎炎のなかでも、特にIgA腎症は世界で最も多い腎炎で、日本を含む東アジアに多いと言われています。尿潜血や尿蛋白の精査で診断されることが多く、腎臓の中のろ過装置である糸球体に免疫グロブリンAという抗体の一種が沈着することで慢性的な炎症が起こると考えられています。この病気は未治療のままでいると40%近くの方が慢性腎不全から透析に至るとされており、早期発見早期治療が重要になります。

多発性嚢胞腎

多発性嚢胞腎は、腎臓にたくさんの嚢胞ができ、腎臓以外の臓器にも障害を生じる最も頻度の高い遺伝性嚢胞性腎疾患です。年齢とともに嚢胞が増えたり大きくなっていくため、次第に腎臓の機能が低下して透析が必要になります。遺伝形式は常染色体優性遺伝ではありますが、ご家族にこの病気の方がいない場合でも、突然変異で発症する場合があります。また小さい頃は嚢胞が小さいので発見されず、30~40歳代までの多くの場合は無症状で経過します。この病気の場合、脳動脈瘤が同時に見つかるケースが多い(脳出血のリスクが高くなります)ので、腎臓以外の検査も必要になります。

尿糖

通常、腎臓で糖を再吸収するため、尿中に糖が出現することはありません。しかし、腎臓で再吸収しきれない程の高血糖の場合、尿中に尿糖が溢れ出ることがあります。尿糖が見られる場合は、以下の疾患が疑われます。

検尿異常を指摘されたら

腎臓疾患、糖尿病などが疑われますので、当院にご相談ください。
検尿異常がある場合に行う検査を記載します。

尿検査

早朝尿

早朝の尿で検査します。起立性蛋白尿が疑われる場合に行います。

尿蛋白定量

尿蛋白がどれぐらい出ているかを調べます。尿蛋白量が多い程、腎臓機能が悪化する恐れがあります。

尿沈渣

尿中の沈殿物を調べて、細胞成分や血球成分・円柱などの異常の有無を調べます。尿沈渣で異常がある場合は、糸球体腎炎の可能性が考えられます。

尿細胞診

尿を顕微鏡で観察することで、尿中にがん細胞が含まれていないかを調べます。

血液検査

腎疾患が疑われる場合、腎機能の評価と腎疾患の原因を探るため、血液検査を行います。

腎炎・ネフローゼ症候群と関連する疾患

IgA腎症・血管炎・全身性エリテマトーデス・多発性骨髄腫・アミロイドーシスなど

腎臓機能評価のための検査項目

クレアチニン・尿素窒素・シスタチンCなど

原因検索のための検査項目

グロブリン(IgAなど)・抗核抗体(ANA)・補体(CH50・C3・C4)・ds-DNA抗体・MPO-ANCA・免疫電気泳動・蛋白分画・ASO/ASKなど

エコー検査

尿検査や血液検査によって腎臓病やその他のがんが疑われる場合に、画像検査を行います。画像検査の目的は、萎縮腎などの腎臓の形態異常の評価・腎生検の適応の有無・悪性腫瘍の検索にあります。

腎生検

腎臓機能低下・蛋白尿・血尿が見られる場合に腎臓の組織一部を採取して、顕微鏡で調べる一連の検査を腎生検と呼びます。原因の特定と、最適な治療方法を見つけるために行います。
腎生検の目的は、正確な組織診断を得ること・適切な治療方法を決めること・病気の見通しを図ることにあります。血尿が続き、進行する腎炎が疑われたり、全身性エリテマトーデスや血管炎などの全身性疾患を持っている方、腎機能障害の原因が不明で腎臓が萎縮していない場合など、腎生検は腎臓の病気があっても適応になる場合とならない場合があります。また、患者さんの全身状態によっては検査ができない場合もあります。検尿異常を指摘されたら、なるべく早めに医療機関を受診してください。なお、腎生検が必要と判断した場合には連携医療機関をご紹介しております。

以下の症状は、腎臓疾患のサインかもしれません。気になる症状がある場合は、速やかに医療機関を受診してください。

  • 尿が泡だち、なかなか消えない
  • 起床時に足や顔が浮腫んでいる
  • 夜中に2回以上トイレに行く
  • 無理をしていないのにだるい
  • めまいや立ち眩みが増えた
  • 喉が渇く
  • 動悸や息切れがする
  • 食欲がない
  • 血圧が高い
  • 頭痛が増えた
  • 顔色が悪い気がする
  • 酷い貧血に悩む
  • 浮腫みが現れる
  • 眠くなる
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