1型糖尿病とは
膵臓の機能が低下することでインスリンの分泌量が減少した状態が1型糖尿病です。インスリン分泌を促す膵臓のβ細胞が破壊されると、インスリン分泌がなくなり慢性高血糖状態を起こし糖尿病となります。
1型糖尿病の大部分は、本来は外部からの細菌やウイルスなどの異物を排除するための免疫が、間違って自分自身の膵臓のβ細胞を攻撃、破壊してしまうことで発症します(1a型)。また少ない割合ですが、はっきりした原因は分からないまま膵臓のβ細胞が障害され、インスリン分泌が低下してしまう場合もあります(1b型)。
若年で発症した1型糖尿病は、インスリン分泌が低下するスピードが比較的急速なことが多く、病気の進行が急激のため、急性発症となります。しかし一方で、中高齢者に発症する1型糖尿病の場合、免疫力が年齢とともに低下しているためか、インスリン分泌の低下するスピードが比較的緩やかな事が多く、緩徐進行1型糖尿病(slow progressive insulin dependent diabetes mellitus:SPIDDM)と言われることもあります。
自己抗体には抗GAD抗体、抗インスリン抗体、抗IA-2抗体、抗ZnT8抗体などが相当します。国内では約21万人が1型糖尿病罹患者とされ、2型糖尿病よりは少ないですが決して稀な病気ではありません。世界における糖尿病罹患者の約5%が1型糖尿病と言われますが、発症には350倍ほどの地域差があります。特にフィンランドやノルウェー・スウェーデンなどに多いとされています。一方、国内では地域差はなく、比較的若い世代を中心に幅広い年齢層で発症が見られます。
1型糖尿病の原因
主に、膵臓のβ細胞が破壊されて膵臓機能が低下してしまうことが原因です。ただし、膵臓のβ細胞が破壊される原因は判明していません。考えられる原因として、免疫反応が正常に機能せず、自分の細胞を攻撃してしまうことが報告されています。自己抗体の有無は血液検査で調べます。
1型糖尿病のうち、約90%が1A型(自己免疫性)、約10%が1B型(原因不明)とされています。自己免疫異常によってバセドウ病や橋本病などの甲状腺疾患を併発することがあります。また、エンテロウイルスや麻疹、レトロウイルスなどのウイルスによる感染が影響する報告もされています。1型糖尿病は、2型糖尿病とは違って生活習慣が発症とは無関係であるということがポイントです。
1型糖尿病の種類
1型糖尿病は、「劇症」・「急性発症」・「緩徐進行」と大きく3つに分類されます。基本的に、1型糖尿病は進行性で急性発症して病気が進みます。病気の進行度合いによって種類が以下のように区別されます。
劇症1型糖尿病
急激に発症し、1週間程でインスリン依存の状態になります。この場合、即時にインスリン補充治療を行わないと、糖尿病急性合併症(糖尿病ケトアシドーシス)に陥り、重篤な状態となってしまいます。あまりにも急激な発症経過を辿るため、発症時の血糖値が高いにも関わらず、徐々に上昇するHbA1c(血糖の指標)はあまり上昇せずに低めです。この場合、血液検査での自己抗体は陰性であることがほとんどです。
急性発症1型糖尿病
最も頻繁に発症するタイプです。ほとんどの場合で、血液検査における自己抗体が陽性とされます。糖尿病の症状が現れてから数カ月程経ってインスリン依存の状態となります。発症後、一時的にまだある自分のインスリン効果で改善する時期がありますが、その後はインスリン治療が再度必要となります。
緩徐進行1型糖尿病
ゆっくりとインスリン分泌が低下していきます。約半年~数年程かけて病気が進行していきます。当初は、インスリン注射を用いなくても血糖値を抑制することができますが、最終的にはインスリン注射が必要となります。このタイプは2型糖尿病との判別が重要となります。血液検査で自己抗体の有無を調べることで判別できることもありますが、自己抗体は病気の進行とともに消えてしまうこともあり、鑑別が難しい場合もあります。
1型糖尿病の症状
主に現れる症状は、喉の渇き・多尿・多飲・体重減少・風邪に似た症状(上気道炎症状、胃腸炎症状)・全身の倦怠感・吐き気・嘔吐・腹痛などが挙げられます。インスリン分泌が減少すると、血糖値が上昇します。高血糖になると浸透圧利尿といって、尿糖とともに尿の量が増えるため脱水状態となります。小さいお子さんの場合は、おねしょ(夜尿)で気付くことがあります。
また、インスリンが不足するとエネルギーを蓄積できず次第に痩せてしまいます。さらにインスリンがなくなると、ケトン体が生成されてケトーシスまたはケトアシドーシスとなり、昏睡や死に至ることがあります。突然これらの症状に襲われることが多く、前年の健康診断では高血糖など指摘されなかった患者様がほとんどです。
治療方法
基本的に、インスリン療法を行います。生命維持のための生きていくためのインスリン(持効型インスリン)と、食事で血糖が上がることを抑えるためのインスリン(超即効型インスリン)を組み合わせた治療です。ただ、毎日同じ生活にはならないので、ある程度ご自身でインスリンの調整をする必要が出てくる場合もあります。カーボカウントと言って、食事や間食で摂る糖質量と血糖値に合わせてインスリン量を決めることで、低血糖と高血糖をできるだけ避けてコントロールをしていきます。SPIDDMの方でインスリン自己分泌が少し残っている方や、年齢などの全身状態によっては、食事の量に関係なくいつも同じ量のインスリンにしていただく場合もあります。
食事療法
基本的に食べてはいけないものはありませんが、食事内容については管理栄養士や糖尿病療養指導士による栄養相談を積極的に実施しております。先程述べましたカーボカウントの基礎知識や日常生活での応用などもご説明しております。1型糖尿病発症時は、インスリンが不足して栄養が吸収できない状態ですので、体重がかなり減っている方も多く、インスリンによる治療が始まることで体重はしばしば増加します。発症前の体重程度であれば特に問題ありませんが、あまりに体重が増えてしまう場合には体重コントロールも併せてご相談に乗っております。
運動療法
適切な運動を行うことで、糖を消費する・筋量を増やして糖吸収を促す・脂肪が減少してインスリン作用を促すなどを図ります。当院では、患者様の年齢や病状・運動経験などから負担のない運動メニューをご提案しております。
薬物療法(内服・インスリン注射)
当院では、ご家庭での自己注射についてご理解いただけるまで時間をかけて何度でもご説明しております。また、インスリン注射と、インスリンを持続的に皮下注入するインスリンポンプ療法も行っております。ご自身で行う上での注意点をお伝えし、インスリン導入のサポートをしております。
加えて、血糖値上昇を抑制する内服薬を用いる場合があります。
よくある質問
1糖尿病はどんな人がかかりますか?
小児から思春期のお子さんに発症が多く見られます。発症のピークは思春期頃ですが、成人でも発症します。日本ではヨーロッパと異なり女性の発症率が多く、人種としては非ヒスパニック系白人の発症リスクが高いとされています。大部分の方は家族歴がありませんが、遺伝的な要素が大きく影響することが報告されており、6番染色体上のヒト白血球抗原(HLA)複合体、特にHLAクラスⅡの影響が大きいとされています。遺伝の影響として、一卵性双生児と二卵性双生児の研究もあり、それによると圧倒的に一卵性双生児は双方の1型糖尿病発症率が高いという結果でした。そして不思議に思われるかもしれませんが、日本の1型糖尿病には、出生月と診断月両方に季節性のパターンが報告され、日本人では冬から春にかけて多く、夏に少なくなっています。この背景には、ウイルス感染や季節によるビタミンDレベル変動(日光に当たることで増加します)などが推定されていますが、はっきりしたことは分かっていません。
1型糖尿病を発症していますが妊娠・出産を希望しておりますが大丈夫でしょうか?
1型糖尿病を患っている方でも妊娠・出産は可能です。ただし、血糖コントロールを行うことで、赤ちゃんへのリスクを可能な限り低くしておく必要があります。妊娠許可できない高血糖状態の場合は、妊娠のご希望があれば目標値に向けて少しタイトなコントロールをする必要もありますし、高血糖状態で妊娠成立が分かった場合には速やかに血糖を是正する必要があります。いずれにしても、妊娠を希望している場合だけではなく、妊娠する可能性がある場合には、主治医にそのことを認識してもらう必要がありますので、ご相談いただいた方がよいと思います。
血糖値がどうしても一定になりません。血糖値コントロールがうまくいくにはどうすればいいでしょうか?
特に自己血糖測定をしている方は、同じようなものを食べて同じような生活をしていても、血糖値が上がったり下がったりするのをよく経験されていると思います。糖尿病ではない方の血糖が1日を通して一定であるのは、複数のホルモンの絶妙なバランスの上に成り立っています。糖尿病の方は、このホルモンバランスが崩れた状態ですので、安定した血糖コントロールをするということは時に容易ではありません。ストレスや不眠、テレワークによる運動量の低下など、血糖が上昇する原因は様々ですが、長い人生のなかで一時的な高血糖が与える影響は大きくありません。ですから、血糖値の上下に一喜一憂する必要はありません。ご自身の努力ができる時には頑張ってもらいたいと思いますが、お薬を見直したり、血糖を悪化させる原因の治療をしたり、病院と協力して乗り越えられることもたくさんあります。血糖値がなかなか一定にならず、うまくいかない時も前向きに気を付けてみることがポイントです。
1型糖尿病の場合は、食事制限は必要でしょうか?
基本的に、通常の食生活を送られている方には、制限は必要ありません。ただ、合併症によっては、塩分制限やタンパク制限が必要になることもありますし、肥満症が問題になる場合は、患者さんと相談の上でベスト体重に向けてカロリー制限や運動療法をして頂くこともあります。1型糖尿病の方も健康な方と同じく、年齢とともに食事バランスやカロリーコントロール・適度な運動習慣などが大切になります。